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「生物多様性」と「生態系サービス」って知っていますか?
「生物多様性」って?
私たちのまわりでは、多種多様な進化を遂げた生きものたちが生きています。その種類は、約870万種とも言われています。このようにさまざまな生きものたちがいることを「生物多様性」といいます。
「生物多様性」の3つの段階
1.遺伝子の多様性
人間一人ひとりに、髪や肌の色、血液型などが違い個性があるように、多くの生きものは同じ種類でも異なる遺伝子を持っています。
この遺伝的な個性の違い(多様性)は、長い年月で変化していく環境に適応したり、新たな天敵に対抗したりして、その種が生き延びていくために大切なものです。
また、生息する地域が違うと、地域ごとで遺伝的特徴を持っていることもあります。つまり、筑紫野市にいる個体と東京などにいる個体は、同じ種類であっても全く異なる歴史が遺伝子に刻まれていることもあるのです。販売されていた生きものを放流したり、飼っていたものを逃がしたりすると、この違いが失われて、その地域独自の遺伝的な歴史をもった生きものたちがいなくなることになってしまいます。
これらの画像は「アカハライモリ」の腹部の模様です。遺伝子の違いで、異なる模様になっています。
2.種の多様性
次の段階には、さまざまな種類の生きものたちが生きていること、そのものの『種の多様性』があります。
異なる種類の生きものたちは、さまざまな関係でつながりあっています。食べる⇔食べられる〔食物連鎖〕や協力し合う〔共生〕や他の生きものを利用する〔寄生〕など、生きものたちは多様な関係性で網目のようにつながっています。この生きものたちのつながりを「生態系」といいます。
1種類の生きものがいなくなることで、「生態系」に大きな影響が生じ、たくさんの種類の生きものたちが連鎖的に命を落としてしまうこともあります。たくさんの生きものたちが安定して生きていくためには、『種の多様性』の豊かさが大切です。
3.生態系の多様性
最後は、先ほどの「生態系」そのものの違い(多様性)です。
山や川、田んぼなど、周囲の環境に適応した生きものたちが、それぞれの場所の環境に応じた「生態系」を構築しています。しかし、それだけではありません。例えば、近くを流れている宝満川と御笠川にでもその生態系は異なっています。ひとことで川の生きものたちと言っても、その場所の生態系はその場所にしかありません。生きものたちが生きる環境をそれぞれの場所で守ることが重要です。
宝満川(上流域)
天拝山歴史自然公園(草むら)
天拝山歴史自然公園(トンボ池)
天拝山歴史自然公園
(湿地)これらの画像は、筑紫野市内の多様な自然環境です。その場所ごとに独自の生態系が育まれています。
竜岩自然の家周辺(田んぼ)
「生態系サービス」って?
『生態系の多様性』をはじめ、「生態系」を形づくる『遺伝子の多様性』や『種の多様性』は、私たちにさまざまな恵みをもたらしてくれています。この恵みを「生態系サービス」と言います。
人間のために、必要であると言われるとエゴではないかと感じるかもしれませんが、その通りです。私たちの私たちの生活を豊かにするために「生物多様性」を守る必要があるのです。
豊かな生態系の恵みは、本当にさまざまあります。例としては、次のようなものがあります。
食物や資源、デザインの供給
私たちは、生きものたちの力を借りて、生活を豊かにしてきました。植物を改良して野菜を栽培したり、カイコのまゆから絹糸を作ったり、野生のゴボウの実からヒントを得てマジックテープを開発したりしています。
世の中には私たちの役に立つものとこれから役に立つかもしれないもののふたつしかないという言葉もあります。私たちが、その可能性に気付けていない生きものも、これから科学技術などが発展する中で、新たな発見をもたらしてくれるかもしれません。しかし、いなくなってしまえば、そのことに気付くこと機会も失われます。私たちは生きものたちに生き続けてもらうために努力し続ける必要があるのです。
固有な文化の育成
豊かな生態系は、私たちに豊かな文化も育んでくれます。各地に伝わる郷土料理や祭事、固有の景色などは、その場所独自の生態系が基盤となっています。
春に行われる筑紫野市祭「二日市温泉 藤祭り」を彩っている藤の花も同様に長い年月をかけて、生態系が育ててくれたものです。この藤を大切にしようと思えば、栄養豊富な土や花粉を運ぶ虫たちなど、周囲に生きるすべての生きものを守る必要があります。ひとつの種の生きものがいなくなるだけで、生態系のつながりがこわれてしまうかもしれません。
地球環境全体の調節
生態系には、地球全体の環境を円滑に調節する働きもあります。雨としてふった水を自然のダムとして木々が保水したり、光合成で酸素を作り出したり、命を落とした他の生きものを分解し土壌の中の栄養に変えたりしています。人間が生きていける環境を維持する為にも生態系は必要不可欠なものです。
感情面への影響
生態系は、人間の情緒も育ててくれます。子どものころにカエルやカブトムシ、魚などを追いかけたり飼育した経験がある人もいると思います。生きものたちと関わることは、重要な経験です。また、自分が魅力的に感じる生きものにふれることで、大きな幸福感を得ることもあります。
豊かな生物多様性(生態系)を守るために
近年話題となっている、〔開発による環境破壊〕、〔畑や山の放棄による自然の荒廃〕、〔人が持ち込んだ外来種問題〕、〔ごみや化学物質による環境汚染〕、〔地球温暖化〕などの環境問題は、どれも「生物多様性」への脅威となっています。
ぜひ、普段の生活の中で、自然とふれる機会を増やしたり、生きもののことを調べたりして、少しだけ生きものたちのことを考えて行動することも、私たちのふるさとにしかない豊かな生物多様性を守る未来につながります。