46.天拝山森林浴と自然観察の山

 二日市温泉の西、九州縦貫自動車道を挟んで、照葉樹に覆われた天拝山があります。
 海抜257.6mの丘陵性のさほど高い山ではないが、菅原道真公が東方の天を拝した山としてあまりにも有名で、筑紫の歴史を語るには欠かすことのできない山です。
  いま、この山一帯が整備されて歴史散歩、森林浴の場所として市民に親しまれ身近なものとなってきました。
 山麓の天拝山公園から登山道に入るとすぐに荒穂神社の大鳥居があり、ここから森林浴コースが始まります。
  この付近は、両側にシャクナゲ、ツツジなどの花木が植えられて、5月頃の花のシーズンはにぎやかになります。
  これを過ぎると、シイ、カシ、などの常緑樹のなかにホオノキが混生した林となります。この一帯は県下でも珍しくホオノキの自生が多いところで、現在、福岡県で唯一のホオノキの種子採取の母樹林に指定されている林で、初夏になると白い大きな花が見られます。
  天拝山は都市近郊にあって、樹木やシダ、キノコなどの植物、野鳥や昆虫などの動植物が多く、自然観察の山としても恵まれており、また、よく整備されたコースがいくつかあります。
  小鳥のさえずりを聞きながら歩ける森の中の散策路は一般、家族向けの森林浴に最適です。
  山の中腹には春の新緑、秋は紅葉が彩るイロハカエデ、イヌシデが茂る荒穂神社があり、伝説によれば、この祭神は新羅から種子を持ち帰り、筑紫から蒔きはじめて全国を青山にしたとあります。まさに天拝山が森林浴の森づくりの元祖を想わせます。
 8合目付近の案内板が設置されている緑陰広場から階段を登り、山頂一帯はシイ、タブ、ヤブツバキの林に変わるが、このなかに海浜性樹木のトベラが自生しています。これは、昔は天拝山の山麓近くまで海がせまっていたことを裏付ける面白い植物の分布状況であり、この山の特徴でもあります。
  山頂には以前マツノキの大木があって、遠くの市街地から天拝山の目安として眺められたが、今は枯れて、これに変わり神社を取りまく3〜4本のタブノキが目立つようになりました。
  筑紫の国は、地理的には暖帯の照葉樹林帯に属し、タブ、シイ、カシ、クス、ヤブツバキなどの常緑樹が郷土樹種として茂り、これらの林は昔から人間の生活と深くかかわってきました。
  天拝山は、この照葉樹林を代表する木の種類と林相が身近に観察できる貴重な山です。
          


    ▲天拝山登山道



                    ご じ さく
         御自作天満宮とシオジの大木


 天拝山の山麓、名刹(めいさつ)「武蔵寺(ぶぞうじ)」に隣接して菅原道真(すがわらみちざね)に由緒深い御自作天満宮があります。
 菅公が無罪を訴えてみそぎをしたと伝えられる紫籐(
しとう)の滝の横の石段を30段ほど上がると静かなたたずまいの天満宮がそれです。
 伝記によれば「御身体は、菅公御在府中椿花山武蔵寺へ御参籠の時、みずから御尊体を彫刻したものを同寺境内に移遷安置された後、現在まで御自作天満宮と称して奉斎されている。」と記されています。
 左裏手には天拝山頂に通じる石段があり、100坪程の境内には赤い鳥居、小さな祠(
ほこら)などがあって、その間に、カエデ、ヤブツバキ、献梅されたウメが植えられています。


▲境内のシオジの大木

▲正面の石段を登りつめた所に御自作天満宮が
あります


 そのほか、社殿より高いスギノキや常緑の樹木が覆いかぶさるように茂っているが、その中に、周囲の樹木とは一風かわった姿をした木があります。モクセイ科のシオジの大木です。天満宮の石段を上りつめた右側の狛犬のすぐ横に、樹高15m、幹回り187cmの落葉樹で、樹皮はスギのように縦に割れています。これはこの木の特徴でもあります。
 シオジは温帯性の樹木で、福岡県では英彦山の高山の自然林が有名ですが、この木が1本だけ大木としてあることは何を意味しているのだろうか。おそらくどこかから持ってきて植えたものと思われるが、この天満宮とどのようなかかわりがあるのか、またどのような伝説を秘めているのでしょうか。筑紫の平野には珍しい大木です。

(斉城巧)